CSIRT構築のステップと実践ポイント ―形だけのチームで終わらせないために―

- CSIRT
- SOC連携
- インシデント対応
- セキュリティ体制構築
- サイバー攻撃対策
■ CSIRT構築の目的を再確認
CSIRTをつくる最大の目的は、「セキュリティインシデントへの迅速で組織的な対応体制を整える」ことです。
そのため、最初から完璧な体制を目指す必要はありません。
むしろ重要なのは、自社に合ったスコープを明確にし、段階的に成熟させることです。
■ ステップ1:現状把握と目的の明確化
まずは、自社の業務やセキュリティ体制を把握し、CSIRTの目的を定義します。
主な確認ポイント
- どのような情報資産を守る必要があるか
- どんなインシデントが想定されるか(例:マルウェア感染、情報漏えい、停止事故など)
- 現在の対応体制(誰が、どのように対応しているか)
- 経営層がCSIRTに何を期待しているか
この段階で「CSIRTのミッションステートメント(存在意義)」を策定しておくと、後の活動方針がぶれません。
例:「当社CSIRTは、サイバー攻撃による被害を最小化し、再発防止を推進することを目的とする。」
■ ステップ2:体制の設計と役割定義
次に、CSIRTの組織構造とメンバーの役割を設計します。
大企業であれば専任チームを置くこともありますが、多くの企業では兼任型CSIRTからのスタートが現実的です。
代表的な役割
| 役割 | 主な責務 |
|---|---|
| CSIRTマネージャー | 全体統括、経営層との報告・調整 |
| インシデントハンドラ | 技術的対応(検知・分析・封じ込め) |
| コミュニケーション担当 | 社内外の連絡調整・報告文書作成 |
| 法務/広報担当 | 法的対応、対外説明の調整 |
| 支援メンバー(SOCや運用担当) | ログ分析、監視連携、根本原因調査 |
まずは「最小限のメンバーでどこまで対応できるか」を明確にし、体制表を作成しておくと良いでしょう。
■ ステップ3:インシデント対応プロセスの定義
CSIRTが有効に機能するためには、対応手順(プロセス)を明文化しておくことが不可欠です。
一般的な対応フロー
- 検知(Detect) – SOCや従業員からの報告を受ける
- 分析(Analyze) – 影響範囲や原因を特定
- 封じ込め(Contain) – 拡大防止のための初動対応
- 根絶・復旧(Eradicate/Recover) – マルウェア除去やシステム復旧
- 報告・再発防止(Report/Lessons) – 関係部門・経営層への報告と改善策の実施
📄 ポイント:
- 対応手順は「チェックリスト形式」で文書化
- 休日・夜間対応時の連絡ルートを明記
- 重大インシデントの判断基準を明文化
■ ステップ4:経営層の承認と発足宣言
体制案・対応プロセスが整ったら、経営層の承認を得て正式発足させます。
ここで重要なのは「経営層の支援を明文化すること」です。
例:「当社はCSIRTを正式な組織として認定し、活動に必要なリソース・権限を付与する。」
これにより、現場担当者がインシデント対応を行う際の権限と責任の裏付けが得られます。
■ ステップ5:訓練と改善のサイクル
CSIRTは設置して終わりではありません。
実際に機能させるためには、定期的な訓練とレビューが欠かせません。
継続的な改善活動
- 年1回以上の机上演習(Tabletop Exercise)
- 実インシデント対応後の事後レビュー(Lessons Learned)
- 対応手順や連絡体制の定期見直し
- 他社CSIRT・NCA・ISACとの情報共有活動
CSIRTは「育てる組織」です。
継続的な訓練と改善を通じて、初めて実戦で機能する体制になります。
■ まとめ:小さく始めて、確実に成熟させる
CSIRT構築の理想形は組織によって異なります。
重要なのは「完璧な体制を最初から作ること」ではなく、今できる範囲から着実に進めることです。
まずは兼任チームでも構いません。
明確な役割とプロセスを持つことで、インシデント対応の質とスピードは格段に向上します。
CSIRTは単なる組織ではなく、企業を守る文化をつくる第一歩です。
その一歩を踏み出すことこそ、これからのセキュリティ経営の基盤になるでしょう。



