背景:従来型防御の限界

従来の境界型セキュリティでは、社内ネットワークに接続されているだけで信頼される設計でした。しかし、クラウドサービスやリモートワーク端末の普及により、内部からの脅威や侵害のリスクが増大しています。例えば、端末紛失やマルウェア感染、内部不正など、内部ネットワークにアクセス可能なだけでは安全性を保証できません。
そのため、ゼロトラストモデルでは以下の考え方が重要です。

  • 「信頼せず、常に検証する」:ユーザーやデバイスの属性をリアルタイムで確認
  • 最小権限の原則:必要なアクセス権のみ付与し、不要な権限は与えない
  • コンテキストベースのアクセス:端末状態や場所、ログイン時刻などに応じた動的なアクセス制御

これにより、内部・外部を問わず安全な環境を維持できます。

 

アイデンティティ管理の手段

ゼロトラストに基づくアクセス制御には、次の要素が含まれます。

  • ユーザー認証
    SSO(Single Sign-On)とMFA(多要素認証)を組み合わせ、本人確認を強化。パスワード漏洩だけでは侵入を許さない体制を構築します。
  • 端末管理
    デバイスのOSバージョン、セキュリティパッチ、暗号化状態などを確認し、セキュリティ基準を満たしていない端末のアクセスを制限します。
  • アクセス制御
    ロールベースやリスクベースの動的ポリシーを適用。業務上必要な範囲に限定してアクセスを許可します。

これらにより、内部不正やクラウドサービスへの不正アクセスリスクを最小化できます。

 

導入手順

ゼロトラストアイデンティティ管理を導入する際のステップは以下の通りです。

  1. ユーザー・端末の棚卸
    組織内の全ユーザーとデバイスをリスト化し、属性や使用状況を把握。アクセス権の適正化に向けた基盤を作ります。
  2. 認証強化
    SSOとMFAを導入し、パスワードだけでは不正アクセスできない環境を整備。リスクが高いユーザーや端末には追加認証を求める設定も有効です。
  3. アクセスポリシー設計
    業務役割やアクセス頻度に応じた動的ポリシーを設計。リスクベースでアクセスを制御することで、侵害が起きても被害を局所化できます。
  4. 監査・ログ分析体制構築
    不正アクセスや異常行動を監視するSOCやSIEMと連携。異常検知時の自動アラートや対応フローを整備します。
  5. 継続的改善
    ポリシー更新や運用レビューを定期的に実施し、組織環境や脅威の変化に応じて改善を行います。

 

あるべき姿

理想的な状態は、組織全体でアイデンティティ管理が統合され、アクセスが動的に制御されることです。

  • 内部・外部を問わず、アクセス権は必要最低限に制御
  • 端末状態やユーザー属性を常時検証
  • 不正アクセスや異常行動が即座に検知・対応可能

このような状態であれば、クラウドサービスやリモートワーク環境でも安全性を高く維持できます。

 

まとめ

ゼロトラスト時代のアイデンティティ管理は、クラウド活用やリモートワーク環境の安全性確保に不可欠です。
SSOやMFA、端末管理、動的ポリシーを組み合わせることで、内部外部問わずアクセスを常時検証できる環境を構築できます。継続的な運用レビューと改善を実施し、組織全体のリスクを最小化することが重要です。