IDS/IPSとは?基本概念と役割

IDS(Intrusion Detection System:侵入検知システム)

IDSは、ネットワークやシステムへの不正侵入や異常な活動を検知することに特化したセキュリティシステムです。
名前の通り「Detection(検知)」が主要機能で、攻撃や異常を発見した際にアラートを発行します。

簡単に言えば、IDSは「セキュリティの監視カメラ」のような存在です。
不審な動きを24時間365日監視し、問題を発見すると管理者に通知します。

IPS(Intrusion Prevention System:侵入防止システム)

IPSは、IDSの検知機能に加えて、検知した脅威を自動的にブロックする機能を持つシステムです。
「Prevention(防止)」の名前が示すように、攻撃を検知するだけでなく、リアルタイムで防御も行います。

IPSは「セキュリティガード」のような存在で、不審な侵入者を発見すると同時に、その場で侵入を阻止します。

IDS/IPSとFirewall・WAFの違い

これらのセキュリティ技術の違いを整理すると以下のようになります:

Firewall(ファイアウォール)

  • ネットワークの境界での基本的なアクセス制御
  • IPアドレスやポート番号に基づくフィルタリング
  • 事前に定義されたルールに基づく許可/拒否

WAF(Web Application Firewall)

  • Webアプリケーション特有の攻撃を防御
  • HTTPリクエストの内容を詳細に分析
  • SQLインジェクション、XSSなどのアプリケーション層攻撃に対応

IDS/IPS

  • ネットワーク全体の異常な動作を監視・防御
  • 攻撃パターンや異常な通信を検知
  • より広範囲で深い分析による脅威検知

つまり、Firewallが「門番」、WAFが「Webアプリの専門警備員」だとすると、IDS/IPSは「敷地内を巡回する警備員」のような役割を担います。

IDS/IPSの動作原理

検知手法

IDS/IPSは主に以下の3つの手法で脅威を検知します:

1. シグネチャベースの検知

既知の攻撃パターンをデータベース化し、通信内容と照合して脅威を検知します。ウイルス対策ソフトのパターンファイルのような仕組みです。

メリット

  • 高い検知精度
  • 誤検知が少ない
  • 攻撃の種類を特定可能

デメリット

  • 未知の攻撃には対応できない
  • 定期的なシグネチャ更新が必要

2. アノマリベースの検知(異常検知)

正常なネットワーク動作のベースラインを学習し、それから逸脱した動作を異常として検知します。

メリット

  • 未知の攻撃も検知可能
  • 新たな脅威に対応
  • 内部からの攻撃も検知

デメリット

  • 誤検知が多い可能性
  • 学習期間が必要
  • 攻撃の種類特定が困難

3. ハイブリッド検知

シグネチャベースとアノマリベースを組み合わせた手法で、両方の利点を活用します。

配置方式

ネットワークベースIDS/IPS(NIDS/NIPS)

ネットワーク上を流れるパケットを監視し、通信内容を分析します。

配置場所

  • ネットワークの境界(インターネットとの接続点)
  • 重要なネットワークセグメントの入口
  • スイッチのミラーポート

特徴

  • ネットワーク全体の監視が可能
  • 複数のホストを同時に保護
  • ネットワーク機器への影響が少ない

ホストベースIDS/IPS(HIDS/HIPS)

個々のサーバーやエンドポイントにエージェントをインストールし、そのホスト内の活動を監視します。

特徴

  • ホスト内部の詳細な監視
  • ファイルの改ざんやログイン試行を検知
  • 暗号化された通信も監視可能

IDS/IPSが検知・防御する主な脅威

1. ネットワーク侵入攻撃

  • ポートスキャン: 攻撃者がシステムの脆弱性を探索する行為
  • バッファオーバーフロー攻撃: メモリの脆弱性を狙った攻撃
  • DoS/DDoS攻撃: サービス拒否攻撃による可用性への攻撃

2. マルウェア活動

  • ボットネット通信: 感染したマシンとC&Cサーバーとの通信
  • データ窃取: 機密情報の外部送信
  • ランサムウェア: ファイル暗号化と身代金要求

3. 内部脅威

  • 権限昇格: 通常のユーザーが管理者権限を不正に取得
  • データアクセス異常: 通常とは異なるファイルアクセスパターン
  • ラテラルムーブメント: 侵入したシステムから他のシステムへの水平移動

4. APT(Advanced Persistent Threat)攻撃

  • 長期潜伏: システム内に長期間潜伏する高度な攻撃
  • 標的型攻撃: 特定の組織を狙った継続的な攻撃
  • 多段階攻撃: 複数の手法を組み合わせた複雑な攻撃

IDS導入のメリットと課題

メリット

1. 包括的な監視能力

  • 24時間365日の監視: 人間では不可能な継続的な監視を実現
  • 多層防御の強化: Firewall、WAFと組み合わせた包括的な防御
  • 可視性の向上: ネットワーク上で何が起きているかを把握

2. インシデント対応の迅速化

  • 早期検知: 攻撃の初期段階での検知により被害を最小化
  • 詳細なログ: 攻撃の手法や経路を詳細に分析可能
  • 証跡保全: 法的対応やフォレンジック調査に必要な証拠を保存

3. コンプライアンス対応

  • 規制要件の充足: 各種セキュリティ基準への準拠
  • 監査対応: セキュリティ監査時の証跡提供
  • リスク管理: 企業のリスクマネジメント体制強化

課題

1. 誤検知(False Positive)の問題

  • アラート疲れ: 大量の誤検知により重要なアラートを見逃すリスク
  • 運用負荷: 誤検知の確認作業による運用チームの負担増加
  • チューニングの必要性: 環境に合わせた継続的な調整が必要

2. 運用の複雑さ

  • 専門知識の必要性: 適切な設定と運用には高度な専門知識が必要
  • 24時間監視: リアルタイムでの監視・対応体制の構築
  • 継続的なメンテナンス: シグネチャ更新やルール調整の定期実施

3. パフォーマンスへの影響

  • ネットワーク遅延: トラフィック分析による通信速度への影響
  • リソース消費: 高度な分析処理によるシステムリソースの消費
  • スケーラビリティ: ネットワーク規模拡大時の性能確保

IDS/IPS運用のベストプラクティス

1. 適切な配置設計

重要ポイント

  • ネットワークの境界および重要セグメントへの配置
  • トラフィックの可視性を最大化する配置
  • パフォーマンスへの影響を最小化する設計

2. チューニングと最適化

実施事項

  • 環境に応じたルールセットのカスタマイズ
  • 誤検知を減らすためのホワイトリスト設定
  • 攻撃トレンドに応じた定期的なルール更新

3. 監視・運用体制の構築

必要な体制

  • 24時間365日の監視体制
  • インシデント発生時のエスカレーション手順
  • 定期的な運用レビューと改善

4. 他のセキュリティ対策との連携

連携例

  • SIEM(Security Information and Event Management)との統合
  • SOARツールによる自動化された対応
  • 脅威インテリジェンスとの連携

SOCサービスによるIDS/IPS運用の効率化

IDS/IPSの効果的な運用には、高度な専門知識と24時間体制の監視が必要です。SOC(Security Operation Center)サービスを活用することで、以下のメリットが得られます:

1. 専門家による監視と分析

  • 経験豊富なアナリスト: セキュリティ専門家による高度な分析
  • 脅威インテリジェンス活用: 最新の攻撃情報に基づく検知
  • 迅速な判定: 誤検知と真の脅威の迅速な判別

2. 24時間365日の対応体制

  • リアルタイム監視: 深夜・休日を問わない継続的な監視
  • 即座の初期対応: インシデント発生時の迅速な初期対応
  • エスカレーション: 重要度に応じた適切な報告・対応

3. 継続的な改善

  • チューニング: 環境に応じた継続的な最適化
  • 脅威分析: 攻撃トレンドの分析と対策立案
  • レポート提供: 定期的なセキュリティ状況レポート

まとめ:IDS/IPSで実現する包括的なセキュリティ

IDS/IPSは、現代の企業ネットワークにおいて不可欠なセキュリティ技術です。Firewall、WAFと組み合わせることで、多層防御による包括的なセキュリティ体制を構築できます。

効果的なIDS/IPS活用のためのポイント:

  1. 適切な技術選択: 自社環境に最適なIDS/IPSソリューションの選定
  2. 戦略的な配置: ネットワーク構成を考慮した効果的な配置
  3. 継続的な運用: 専門知識に基づく適切なチューニングと監視
  4. 他技術との連携: 包括的なセキュリティ戦略の一部として位置づけ

特に運用面での課題を解決するためには、SOCサービスの活用が効果的です。専門家による24時間監視と適切なチューニングにより、セキュリティレベルを維持しながら運用負担を軽減できます。

Colorkrew SecurityのSOCサービスでは、Trend MicroのCloud One - Endpoint and Workload Securityや、Azure FirewallのIDS/IPSの導入・運用支援を行っています!

IDS/IPSの導入や運用改善を検討されている企業の皆様、より効果的なセキュリティ監視体制を構築したいとお考えの方は、ぜひColorkrewにご相談ください。

豊富な経験と専門知識で、御社のネットワークセキュリティ強化をサポートいたします。